community center dista

ニュースペーパーNEWSPAPER

南界堂通信〈冬号|第25号〉

時事ネタWATCH ─ 中高年MSMと暮らし ─

分裂する当事者?─杉田議員「LGBTは生産性がない」の波紋

この夏は、杉田水脈衆議院議員の「LGBTは生産性がない」が大きな波紋を呼びました。振り返ってみたいと思います 。

杉田議員は、『新潮45』の八月号に「「LGBT」支援の度が過ぎる」を寄稿。内容はネットで拡散され、またたくまに「炎上」しました。

当事者団体としては、7月23日、「LGBT法連合会」が抗議声明を、「LGBT理解増進会」が「重大な懸念」の緊急声明を、出しました。7月27日、東京の自民党本部前に、五千人が抗議行動に集まりました。翌28日には大阪でも抗議行動が。

『新潮45』は10月号で主に杉田擁護の論者による特集を組んで「再炎上」、その後休刊となりました。

杉田論文はLGBT支援の「度が過ぎる」というものですが、それには、永易至文さんが、そもそも「『過ぎる』と言われるほどのLGBT支援があったのか?」と反論しています(「杉田議員の「LGBT非難」の度が過ぎる」)。

他方で、こうした抗議に対する当事者内のシニカルな目線も散見されました。

ドラァグクィーンのナジャ・グランディーバさんは、TV番組で、「LGBTに属してる人間から言うと生産性がない、子供は作れない。でも不妊治療は凄いお金がかかる、それを先にやってもらって私等は後回しでいい。本当に楽しいから毎日。だからもっと困ってる人等を優先してもらっていいって当事者は思ってる人が多いと思う。」とコメント。

更にネットでは、「ボクは日本に住んでるけど幸せです。挙式もできたし、仕事もある。友達もいる」というゲイのツイートに賛否両論が飛び交っていました。

トランスジェンダー活動家の水野ひばりさんは、この語り方について「何がいけないのか」を論じたブログで、マイノリティが「模範的であろう」としたり、マジョリティに同化しようとすることを「モデル・マイノリティ」と呼んで分析しています。

男性同性愛の近代史の研究者の前川直哉さんも、このタイミングで「自分はゲイだけど差別されてない」と発言することについて、自分の幸せを語ることで、現に差別されている人の問題を隠蔽しようとするのであれば、それもまた一種の差別行為ではないかと問題提起しています(ツイッター)。

個人的に思うのは、当の一番問題になった箇所を正確に抜き書きしますと、
「子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。」

つまり、①「LGBT(カップル)は子どもを作らない(再生産性がない)」→②「生産性がない」→③「税金投入(施策)の必要性がない」という二段階の論法になっており、本来、子を生み育てること(再生産)と働き稼ぐこと(生産)は、別個の概念なのに(子育てと仕事の両立(ワークライフバランス)は大変。つまり、時に相反もする。)、両者をあえて混同した上で、「①だから②」と、「②だから③」と、二段階を直結させてしまっている(あえて混同/直結しているのは、確信犯で「罠」なのでしょう。そこで、「LGBTだって生産性もある」とか言い返すと、罠にはまる事に…。)

①自体は、(レズビアンマザーとか出て来ているとはいえ)現状のマスとしては、一定真実です。だから、擁護論(ナジャさんとか)も出て来るのでしょう。

しかし、そもそも「①→②」は、再生産と生産を混同している点でおかしいですし(辞職した厚労大臣の「女は生む機械」発言を想起させますね)、更に、「②→③」(生産性がなければ施策の必要性はない)の論法のあまりのヒドさに、幅広い批判が集まったものと思われます。

当事者内の意見分布とは別に、世論調査では、8割以上の人が「杉田氏の考え方は問題がある」という結果が出ています(JNNの8月の調査。「非常に問題がある」が52%、「ある程度問題がある」が31%)。それは、①の問題のとらえ方は人それぞれとしても、「②→③」には多くの人が違和感を抱いたからではないでしょうか。女性、障害者、高齢者・・・LGBT当事者外に共感の広がりの可能性を感じました。

もっとも、①自体は、人口減少・高齢化の日本では、今後焦点が当たってくることが考えられます(家族の問題とか)。次号では、同性カップルをめぐる裁判に触れてみたいと思います。(大畑)

過去の南界堂通信

2023年度
2022年度
2021年度
2020年度
2019年度
2018年度
2017年度
2016年度
2015年度
2014年度
2013年度
2012年度

過去のいくナビ

2022年度
2021年度
2020年度
2019年度
2018年度
2017年度
2016年度
2015年度
PAGE TOP