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南界堂通信〈春号|第30号〉

時事ネタWATCH─中高年MSMと暮らし─

新型コロナウイルスと私たち

新型コロナウイルス感染の拡大

国内でも新型コロナウイルスの感染が拡大しています(4月4日現在。既にdistaも臨時休館)。

NHKの報道番組に(いつもMASHがお世話になっている)大阪市立総合医療センターの白野倫徳医師が出ておられて、若年層でも急に悪化するとのことで、「普通に来院していた患者さんが、数日後、人工呼吸器が必要な状態に悪化」という例を紹介し、警鐘を鳴らしていました。

とにかく手洗い、消毒を徹底、不要な外出は控え「ソーシャル・ディスタンス」も・・・「自分も感染源かも知れないと思って行動する」という指摘に傾聴。

そういえば、新型コロナウイルスについてテレビに出てくる医療者は、これまでHIV/エイズの診療にあたってきた医療者とも重なる感がします。

それは、特に新型コロナウイルス感染症が(今の所)治療法のない感染症であり、大きな病院の診療科のうち、こういった治療法が確立されていない感染症を専門に取り扱っているのがHIV診療だったからかも知れません(それと、呼吸器系日和見感染症との共通性も)。

また、「クラスター」という専門用語がにわかに注目されていますが、こうした感染経路を探索して予防につなげる手法は、HIV/エイズ対策でも実践されてきた疫学の手法とも重なります。

それにしても、新型コロナの医療関係者がHIV診療や行政の担当部署と重なっている部分が多いということですから、「このことで、HIV診療も圧迫する可能性が高く、またHIV感染の当事者にとってはコロナ感染のリスクを考えると通院しにくい状況で(事実、院内感染の報道も。)、HIV抗体検査の機会も減っているのはコミュニティにとっては大問題」という指摘もあります。引き続き注視していきたいと思います。

コロナ対策助成金は風俗業は除外?
天神橋筋商店街

「感染症による社会の動揺は最も脆弱な層を撃つ」というのはHIV/エイズで言われていたことですが、今回の新型コロナウィルスでも通底する面があるかも......と思ったのは、ちょうどこんなニュースが入ってきたからです。

「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための休校に伴い、厚生労働省は子どもの世話で仕事を休んだ保護者向けの助成金を新設したが、風俗業などで働く人は対象外となっている。支援団体は見直しを求めたが、厚労省は応じない構えだ。

この助成では一定の要件を満たせば、雇われて働く人は勤め先が日額8330円(上限)を、フリーランスは本人が1律日額4100円の助成を受けられる。だが要件では「暴力団員」や「暴力主義的破壊活動を行った団体に所属する人」などと並び、「性風俗業」や「接待を伴う飲食業」の関係者を対象外とする。」(朝日新聞4月3日)

見直しを求めた支援団体は、SWASH(代表:要友紀子さん)で、4月2日の厚労省宛て要望書では「風俗は日払いで、今回のような事態によって収入が激減しやすい仕事です。また、社会的排除を受けやすい、困難を抱える親たちの扶養の躓きや困窮を軽減するためには、いま子育てをしながら風俗で働いている人々が求める支援を国が提供することは不可欠」だとしています。

厚労省は、支給除外について「公金を投じるのにふさわしくない業種との判断だ」と説明したそうで(毎日新聞4月3日)、これって差別ではないのか?と思っていたら、この問題は国会でも取り上げられ、官房長官が見直しを言明。4月7日に厚労省は「風俗営業等関係事業主及びその雇用する労働者を支援の対象とする」等の見直しを行いました(厚労省HP)※

※この見直しまでの動きは、要さんがWANのホームページに寄稿しています。「コロナ禍と差別〜風俗業への支援金不支給見直しまでの奮闘裏話〜」

向き合うゲイコミュニティ

中国武漢で始まった新型コロナウイルス感染症。「不要不急の外出自粛要請」や「兵庫‐大阪間の往来自粛要請」を国や行政が呼びかけ、「非常事態宣言」も発令されてしまいました。4月末に予定されていた「東京レインボープライド」、5月に予定されていたHIV検査会を兼ねた大型イベント「NLGR+2020」の開催中止が決定。そしてオリンピックも開催延期となり、ゲイイベントから世界的な祭典までが中止や延期を余儀なくされる状況になってしまいました。そんな状況の中、ゲイバーやハッテン場を取り巻く状況は休業や感染予防の対策をしながらの開店など、たくさんの苦渋の決断をされてきたと思います。また、イベント関係の人からも同様に中止や延期といった対応を伺い、とても大変だったと思います。

「『来てね!』ということも『来るな!』ということも出来ないとても複雑な心境でした。当初私も軽い気持ちでいました。買い占めをする高齢層、『自分は大丈夫』と危機感のない若者、対処しきれない政治家。キレイごとかもしれないけど、コロナウイルスを早く収束するには『他人への思いやり』がこの国には一番必要なのかもしれないね。『うつらない努力』よりも『うつさない努力』を」とSNSで心情を吐露しているのは堂山でダイニングバーを営む「楽都」のマコトさん(南界堂通信6号「男朋友」参照)。営業時間の短縮、席数を減らす、入口のドアを開放しての定期的な換気、テーブルやいす、ドアノブなどのアルコール消毒を心掛け、スタッフには休んでもらったりしながら営業は続けていましたが、非常事態宣言を受けて4月8日から臨時休業に入りました。

「もちろんお客さんは来なくなり収益がなくなっても、家賃、おしぼり代、電気、水道、ガス、地域の組合費その他もろもろの費用だけは毎月かかります。毎月大金を泥棒に入られるような感じですねぇ...、恐ろしいです。あちらこちらでバーを名指しにしますけど、その他のお店や交通機関の方が混み合ってますし、逆にリスクは低いと思います。いまは利益ではなく赤字を減らす努力が必要です。自粛しつつも短時間でも開けざるを得ないですし、これが続くと食べて行けるはずないですね。もともとこの辺りのお店は低価格設定が多く、利益をガンガン出すスタイルではないので細々続けるしかないかと思います」と、ミナミにあるバーのマスターは苦悩されています。渦中多忙の中、お話を聞かせていただいた店舗様、本当にありがとうございました。

4月11日の時点で、ゲイコミュニティのお店は、ハッテン場も含めて約半数が休業、半数はいろいろな対応をしながら、さまざまな思いを抱えながら営業を続けています。ついこの間までは、他国での出来事、クルーズ船の中だけの出来事ととらえていたことが目の前に迫り、静けさの似合わない街に静かな夜が訪れています。

パークアベニュー堂山

新型コロナウイルスはもちろんSEXでも感染します。キスだけでも感染すると言われています。もちろん乱交や複数でのSEXも厳しいでしょう。密閉・密接・密集に近づかないように、夜の街に出歩かないように、不要不急の外出は控えてくれ、そう言われても、出会い系アプリを開けば「SEXSEXSEX」と叫んでいる人、SNSでは外出して飲んでいる写真を投稿するする人。やりたい気持ちはわかる一方で、自分の行動が誰かの命の危機を招くかもしれないという想像力がないのか、とも思ってしまいます。「敵を知り己を知れば百戦殆からず」と孫氏は言いました。人は敵のことはよく観るものですが、自分自身のこととなるとそうはいかないものですよね...

と思えば、そんな行動をとる人達を鬼の首を取ったような顔で非難する人、ハウリングしている人のプロフィールを晒す人もいて、まるで怒号が聞こえてきそうなほど色んな言葉がオンラインでは飛び交っているのに、実生活の部屋の中はシン...としている不思議。

一体、誰のために、何のために、こんなに我慢しなければいけないのだろうか、自分がダメになりそうに感じてしまいます。そんな圧力を感じます。

今、私たちは歴史の戸口に立っています。パンデミックとして教科書にも載っている102年前のインフルエンザ。戦争中、他国が情報を隠蔽するなか、スペインは唯1感染動向を情報公開したために風評被害にも苦しめられたといわれています。

そして30年前のエイズパニック。今の世界の動きを見ていると30年前を思い出すというDJの方もいました。人種、セクシュアリティ、ジェンダー、セックス…あらゆることに影響のあったエイズパニックからわたしたちは多くのことを経験しました。感染症の流行に伴って、その陰で脆弱な層が被害にあう中で、排除や非難を乗り越えて、なんとかウイルスと共に生きる方法を模索してきたのが私たちです。しかし、現在の新型コロナウィルスに関わって加熱する報道を見ていると本当に学んでこれたのか、疑問が残ります。

自分自身が感染している可能性を考えてと言われると、そばにいたいのにそばにいられない、会いたいのに会えない、そんなことを思う毎日だと思います。とにかく家にいてと言われても、1人で不安に思う人も多いと思います。

人と人がつながってできるのが、コミュニティ。ドイツの哲学者マックス・シェーラーは言いました─「愛こそ貧しい知識から豊かな知識への懸け橋である」。今は、想像力を働かせるときかもしれません。誰かのために、自分自身ができることを、積み重ねると、感染症に少しだけ強いコミュニティの日常が、形を変えて、戻ってくるかもしれません。

だから、またいつか、元気に、夜の街で会いましょう!(町登志雄・伴仲昭彦)

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