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南界堂通信〈秋号|第32号〉

エイズ対策のキーパーソンたち

渡邉充春 先生
地域の健康課題に
往診というかたちで応える
歯医者さん!
渡邉充春わたなべみちはる 先生

西成区を拠点に外来診療のみならず往診にも取り組む「わたなべ往診歯科」の渡邉充春先生にお話をうかがいました。

MASH大阪(以下M):「往診歯科」という言い方、はじめて耳にしたのですが、どのような経緯で往診歯科を名乗ることになったのでしょうか?

渡邉:お答えするには自分史を語ることになりますが(笑)、六十年代後半に学生だった私は学生運動にのめりこみ、その流れで卒業後も社会運動に関わり、医学・歯学の専門家として地域の健康課題に取り組むようになります。課題のひとつに、港湾労働者の塵肺という職業病があり、鉱物・金属の粉塵で塵肺になった場合は労災が適用されるが、そうでない場合は適用されないという問題がありました。こうした課題に取り組もうという人たちが七十年代の後半、南大阪労働者診療所を弁天町で立ち上げ、私も最初は検査技師として、のちに歯科医としてかかわると同時に、労災適用を拡大する運動にもかかわるようになりました。実際、港湾労働で塵肺になる人たちのなかには、鉱物・金属に限らず様々な種類の粉塵を吸うことで塵肺になるケースがたくさんあったのです。

M:医療者の立場で地域の労働者の健康課題にかかわっていく、というスタンスだった?

渡邉:そうですね。80年には、南大阪労働者診療所で働きながら、歯科保健研究会というNGOを立ち上げ、歯科医だからこそできるボランタリーな活動に取り組み始めます。そのひとつが野宿者をクライアントとする歯科の相談・無料診療・往診です。

M:その場合、診療はどこで?

渡邉相談現場やドヤです。三畳くらいの狭い部屋で診察するのは大変でした。しかし、長期にわたって診療所外で医療行為を繰り返し行うのはいかがなものかという声が行政から上がってきたので、それならば、というので十年前に立ち上げたのがこの「わたなべ往診歯科」だったわけです。

M:なるほど、野宿者の人たちを歯科医として支援するために「往診歯科」とした...

渡邉:そうなんですが、この名称には歯科医師会からクレームがつきました。クライアントの囲い込みではないか、というわけです。しかし時代の変化は速く、今では野宿者をクライアントとする事業所がたくさんできています。野宿者の多くは生活保護を受けていきますので、ある意味安定した事業を営むことができるわけです。

M:渡邉先生はずいぶん前から「HIV陽性の方も診ますよ」と言われていましたが…

渡邉:ざっくりとした判断ですが、私たちのクライアントのなかには、HIVに限らず、B型肝炎、C型肝炎など、何らかの感染症を持っている人がおよそ30人にひとりくらいの割合でいるだろうと思っています。そうした人たちに個別に対応するのではなく、クライアント全員が何らかの感染症を持っていると想定して感染予防を行う、いわゆるスタンダード・プリコーションの考え方を採用しています。具体的にはラップを多用する、医療器具を使いまわししない、などです。HIVについては、80年代の後半でしたか、先輩医師のつながりでNGO「HIVと人権・情報センター」の会員になり、勉強しました。HIVはB型肝炎ウイルスと感染経路が同じで感染力はずっと弱いので、B型肝炎対策ができていればHIV対策もできていることになるのですが…

M:HIV陽性の方が気軽に歯科医の門戸を叩ける状況には至っていない?

渡邉:そうですね。私たちも手をこまねいているわけではなく、HIV診療の拠点病院(国立大阪医療センター、大阪市立総合医療センター、堺市立総合医療センター等々)と連携して歯科診療連携体制を構築しつつあります。大阪府歯科医師会が窓口となって、拠点病院に通院しているクライアントと個別の歯科クリニックとのマッチングを行うプログラムです。理想は、すべての歯科クリニックがいかなる感染症を持つクライアントでも受け入れるというところにあるので、あくまで過渡的なプログラムと位置づけているのですが。現時点では、マッチングを行ったケースのおよそ半数が実際の通院につながっています。

M:貴重なお話、どうもありがとうございました。

わたなべ往診歯科
●わたなべ往診歯科
〒557-0016 大阪市西成区花園北2丁目5-6
TEL:06-6647-0034
ホームページ
編集部のコメント

揺らぐことのない信念と情熱を持ち「生涯現役」という言葉がピッタリな渡邊先生。西成区で毎月開催されている「HIVカフェ」にも積極的に参加されています。ちょっとした勉強会や野宿者の相談会にも使える会議室も兼ね備えた立派なクリニックでした。

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