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News Paper

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南界堂通信 夏号|第47号

エイズ対策のキーパーソンたち

疫学の視点から見た
HIV感染の今遺伝子レベルで
ウイルスと向き合うと・・・

国立感染症研究所 エイズ研究センター
菊地 正先生

HIV感染、梅毒、エムポックスなど、私たちに身近な性感染症は
今、日本で、世界で、どのような広がりを見せているのでしょうか?
この問題に詳しい国立感染症研究所の菊地正先生にお話をうか
がいました。

MASH大阪(以下M):国立感染症研究所(以下、感染研)で勤務されるまでの経緯は?

菊地(以下K):大学卒業後2年間の初期臨床研修の後、2007年から東京大学医科学研究所(医科研)附属病院で、主にHIV感染症の臨床と研究に従事していました。医科研でHIVのウイルスの多様性に関わる研究や、HIV陽性者の合併症や臨床経過の研究をしていたこともあり、縁があって現在の感染研で、HIV感染症の疫学の研究室で働くことになりました。現在も医科研病院での臨床外来を続けています。

M:臨床と疫学の両方に携わっておられるわけですね。HIV感染症の疫学について、感染研での研究から学ばれたことは?

K:特に重要な点としては以下の3点があります。1つ目は、感染症の疫学は、感染症がどのように流行しているかを知り、対策につながる情報を得ることを目的としていますが、すべてが一体となっているということです。 現在私は、HIVの疫学情報を分析する立場で働いていて、役割は細分化されていますが、陽性者、その支援者、コミュニティ、現場の医療者、検査をする人、感染症の情報や届出に関わる人、そしてそれに基づいて対策を立案する人、実行する人など、すべてが不可分であるということを痛感しています。2つ目として、感染症は、刻一刻と移り変わるという点です。大きな変化としては治療の進歩と、プレップなどの予防方法の進歩があります。流行状況も変わり、そして制度や社会状況も変わってきます。ウイルス自体も少しずつ変化します。これらに応じて調査方法や、対策を変えていく必要があります。 3つ目としては、感染症は一地域にとどまることはなく、世界的な対策と、海外とのつながりを知ることが必要という点です。この点では、HIVの薬剤耐性サーベイランスにおける分子疫学研究が有効で、日本での流行状況を海外との関連で知ることができます。

M:その分子疫学研究を通して、何が見えてきたのでしょうか?

K:例えば、流行しているウイルスの系統は地域によって少しずつ異なっていて、ウイルスの遺伝子を見ると、海外のこの地域で流行していたウイルスが、日本でも増えているというようなことがわかることがあります。日本は北米や西ヨーロッパで流行しているサブタイプが大部分を占めています。一方で、アジアの一部地域では、現在も新規感染者数が増加傾向の地域があり、これらの海外で増えているウイルスの系統が、日本でも複数の流行として検出されることがあります。ウイルス遺伝子を調べることは、同様に、国内での地域ごとの流行の詳細を知ることにもつながります。また、個人輸入によるプレップを使用する人が2020年前後から徐々に増えてきました。プレップの開始・継続にあたって最も重要なことの1つは、HIVの検査とセットで行う必要があるということです。HIV陽性であることに気付かずにプレップを始めてしまい、HIVに耐性変異がみつかる事例が出てきています。こういった耐性を持つウイルスが増えていないかどうかについても注意する必要があります。

M:プレップを始めるときに体内にHIVがあれば、そのHIVに薬剤耐性がついてしまうわけですね。コロナ禍の影響は?

K:日本のHIVの疫学動向としては、新型コロナウイルス感染症流行下で保健所等でのHIV無料匿名検査の数が大きく減少し、診断が遅れている可能性が指摘されています。もともと日本ではAIDS発症を伴ってHIV陽性と診断されるいわゆる「いきなりエイズ」の割合や、診断時CD4値が低い人の割合が諸外国と比較して高いという特徴がありました。検査をどのように有効に広げていくかという課題があるなかで、検査機会を多様化する重要性が今まで以上に高まっています。

M:梅毒やエムポックスの状況は?

K:梅毒は2011年ころから報告数が増加し、特に2021年から急増しています。感染経路が異性間性的接触と報告されたものが特に増加し、同性間性的接触による感染も増えています。セックス(オーラルセックスも含む)の際にコンドームを使用すること、定期的な検査を行うことが重要です。何度も感染しますので、パートナーと一緒に治療することも大切です。エムポックス(サル痘)は以前はアフリカの一部で流行していましたが2022年5月以降、ヨーロッパやアメリカ、遅れて2023年頃からアジアなどで流行しています。日本では2023年の前半(1月〜6月頃)に報告数が増えました。最近は減っていますが週に0〜1例前後の報告があります。世界的な動向と合わせて、今後も注意が必要です。

M:たくさんの貴重な情報、ありがとうございました。