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News Paper

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南界堂通信 夏号|第47号

海外男街通信

サンパウロの光と影

コンソラソン地区の近くにある
YACHT CLUBスタッフは船乗りの装束で

[ ブラジル・サンパウロ篇 ]
世界最大規模のプライドパレードが開催されているサンパウロ。
参加者は300万とも400万とも!
しかしその陰ではびこるLGBTへの排斥と暴力。
日系3世のヒデオさんにサンパウロのLGBT事情を語っていただきました。

はじめまして、ヒデオと申ます。30代の日系3世のブラジル人で、サンパウロの生まれ。今は日本に住んでいて、バイセクシュアルを自認しています。
サンパウロはブラジル最大、南半球最大の、東京と同じくらいの大都会です。日系人もたくさん住んでいますが、LGBTの人たちの状況は日本とかなり違います。今日はそんなサンパウロの様子をお伝えしようと思います。
自分がバイセクシュアルだと気付いたのは28歳のときでした。インターネットで見つけたバイセクシュアルのグループに参加し、カウンセラーを交えて経験や困りごとを語り合ったり、ピクニックに行ったりしました。そこで気が付いたのは、ブラジルのLGBTの人たちは自分にラベリングをしない人が多く、孤独になりがちだということ。僕も28歳になるまでそうでした。バイというラベリングをしてようやく、LGBTの友人ができるようになったわけです。
プライドパレードにも参加するようになりました。最初は面白いと感じませんでしたが、段々とイメージが変わっていきました。なぜかというと、パレードの先頭を車椅子の人たちが歩き、そのあとにLGBTIの子をもつお母さんたちのフロートが続くという順番が定着するようになったからです。とても素晴らしいやり方だと思います。
ブラジルでは自分にラベリングしない人が多いと言いましたが、その背景には、一般的な家庭では「家族の中にLGBTが居てほしくない」と考える人が多いことがあげられます。さらにその背景には、国民の5割を占めるカトリック、3割のプロテスタント、いずれもLGBTに冷淡というキリスト教文化があります。カミングアウトしたことで家族から暴力を受けたり放逐されたりすることも頻繁に起きています。LGBTの人たちのあいだでは自殺、うつ病の割合が高いことも報告されています。とりわけトランスジェンダーの人たちの状況が厳しいと思います。
一方で、こうした状況を改善していこうとする動きも活発です。市当局は市内の5ヶ所に〈LGBTI市民センター〉を設置し、LGBTIの人権を守る活動を行っています。これとは別に、NGOが開設した〈LGBT文化と保護のセンター〉というのがあって、ここでは家庭から放逐された青少年に避難所を提供していて、宿泊、カウンセリング、就業支援、裁縫教室、衛生管理プログラムなどさまざまなサービスを提供しています。

LGBT文化と保護のセンターの外観

LGBT文化と保護のセンター開設の準備の様子

大学でもさまざまな取り組みがあります。LGBTについての講義や研究会がさかんに行われていて、心理職、医師、弁護士などがLGBTについて学ぶ環境があります。それもあって、サンパウロでは弁護士の働きでトランスジェンダーの人たちが手術の必要なく名前を変更できるという判決を勝ち取っています。サンパウロだけでなく、20年ほど前から連邦政府がダイバーシティ教育に積極的に取り組むようになり、LGBTコミュニティの認知度が飛躍的に高まっています。同性婚が制度化されたり、大規模なプライドパレードが実施されたりする背景には、当事者側の働きかけとそれに応えようとする連邦政府や市当局の教育政策の転換があると思います。ただ、前に述べたようにLGBTの問題は失業・宗教・暴力とも密接に絡むため、問題が深刻化しやすいと思いますし、保守派が政権を取ると、教育政策がガラリと変わったりします。
最後に、サンパウロのゲイタウンについて。大きなゲイタウンが3つあります。都心で映画館、サウナ、ハッテン場が集中するレプーブリカ地区、同じく都心でカフェ、バーとクラブが多いコンソラソン地区、少し離れた、ダンスクラブが集中するバーハ・フンダ地区の3つです。クラブ・ミュージックは店舗によってジャンル分けされていて、A店では米国やブラジルのポップス、B店ではテクノ、C店ではトライバル・ハウスといった具合に細分化されています。ハッテン系のバーやサウナでは曜日ごとにテーマ―SM、セクシーマッサージ、フィストファック、ポルノ男優出演など―を決めてイベントをやることが多く、ドレスコードも変わります。日本との大きな違いは、年齢や体格で入場が制限されることは決してないという点です。逆にいうと、日本のゲイタウンで一番ムカつくのは、年齢などで入場が制限されることですね。ブラジルであれば必ず抗議されます。一方で、治安が良くないので、ビデオボックスやハッテン系映画館などではよく貴重品が盗まれるし、オススメしません。

プライドパレードで行進するトランスジェンダーのグループ

以上のように、LGBTの人権を守ろうとする勢力と排斥しようとする勢力がガチでせめぎ合ってるのがサンパウロ市およびブラジルという国の現状ではないかと思います。