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News Paper

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南界堂通信 秋号|第48号

追っかけエイズ

48_追っかけエイズ_竹野翠さん
外国籍HIV陽性者支援の現状
~障害者手帳取得への道はなぜこうも険しいのか?〜

NPO法人CHARM
(Center for Health and Rights of Migrants)で働く
竹野翠(たけの・みどり)さんにお話をうかがいました。

 はじめまして、竹野翠と申します。今回はCHARMでの私の主な仕事の一つである外国籍HIV陽性者支援について報告します。

 私は盲導犬の訓練士になりたくて、大学で社会福祉を専攻しました。一方で、同じ時代を生きているのに、地域や国によって自分とは違う生活を送っている人々の存在に気付きフィリピンに留学、現地でエンターテイナーとして日本に出稼ぎに来た経験のある女性とその子どもを支援するNGOに関わりました。帰国後、大学の先生からCHARMを紹介され、半年間インターンをし、卒業後はいったん福祉以外の仕事をしてみたいと考え、一般企業で4年間営業として働きました。その後、社会福祉士の資格を取って、病院でMSW(メディカル・ソーシャルワーカー)の仕事に就きました。上司や同僚に恵まれ、社会福祉の何たるかを学ぶことのできた職場でした。

【HIVへの偏見に直面】
 ところが四年経ったころ、自分にとって大きな事件が持ち上がります。HIV陽性で脳卒中後の方のリハビリの依頼が来たのですが、その時にウン十年前に社会に植え付けられたHIVへの偏見は変わっていない、という現実を目の当たりにしました。このまま病院で働き続けていいのだろうか、とさんざん悩みました。CHARM事務局長の青木にも相談し、ボランティアとしてCHARMに関わり始め、昨年4月に正式なスタッフとなりました。

【外国籍HIV陽性者の抱える問題点】
 さてその、外国籍HIV陽性者の支援ですが、制度的に大きな問題があります。私のクライアントの出身国はインドネシア、中国、台湾、ミャンマーなどですが、これらの国々では、欧米の主な治療ガイドラインに従い、CD4(免疫力の指標)の検出量やウイルス量にかかわらずHIV感染がわかった時点で治療が開始されます。ですから、早くに治療を始めている人たちは高い免疫が維持されていることが多いです。ところが日本では、HIV陽性であることに加えて、4週間以上あけて、CD4の数値が平均500/µl以下、もしくはウイルス量が5000コピー/ml以上の検査データ2回分を提出しないと障害者手帳が申請できません。

 そうなると、出身国で治療を受け、免疫を高く保った人が日本に長期滞在で来た場合、日本の健康保険に加入していても障害者手帳を取得できないケースが出てきます。病状が進行しないという、本人にとっては望ましい状況が、福祉制度に乗っかれない要因になる、という皮肉な事態が生じるわけです。ではCHARMとしてはどう対応するのか?

【対策】
 留学、就労などの長期滞在のビザで入国してきたHIV陽性者から問い合わせがあり、本人が障害者手帳を申請できそうな検査結果を持っている場合は、通訳のコーディネート込みで拠点病院に繋ぎ、そのまま障害者手帳取得の手続きと治療が開始されます。障害者手帳が申請できなさそうな場合、いくつかの選択肢を提示します。一つ目は健康保険の高額療養費制度を利用する。これを使えば大阪市の国保の場合、来日一年目の外国籍住民の一か月の自己負担上限額は57,600円となります。しかし、母国の家族へ仕送りをする多くの外国籍HIV陽性者には大きな金額でまず支払うことは困難です。二つ目の選択肢は、オンライン薬局でジェネリックを購入し、服薬を続ける。三つめは、母国から薬を送ってもらう。例えばインドネシア政府は海外在住のHIV陽性の国民にその国で治療に繋がれるまで薬の送付を保証しています。しかし、薬の輸入は完全に自己責任で且つ薬が入手できるため通院を止めてしまう人も多く、大きなリスクが伴います。最後の選択肢は服薬を中断して免疫が下がるのを待ち障害者手帳を申請するというものです。

【ケース】
 Aさんのケースを見てみましょう。Aさんは仕事で来日。母国での治療により免疫が高く維持されていたので障害者手帳は申請できず、日本での長期滞在を希望していたこともあり、服薬を中断して身体障害者手帳の申請を決断。ところが受診した拠点病院の医師より改めてリスクを説明され、Aさんは自分で薬を輸入することにしました。その後Aさんは治療へのモチベーションが下がり通院をも諦めてしまったのでした。

【おわりに】
 外国籍HIV陽性者たちが抱える問題としてお話ししてきましたが、実は海外に長期滞在し、現地でHIV陽性が分かった日本人が帰国する際にも同じ問題が生じます。近年、治療薬の発展に伴い、留学・仕事などでHIV陽性者が国境を越えるケースが増えてきています。せっかく夢と希望を持って来日した外国籍HIV陽性者のがっかりした姿を見るのは非常に残念で心が苦しくなります。世界との距離が近くなった今、日本でも国際水準に則り、早くすべてのHIV陽性者が必要な医療を受けられるようになったらよいなと考えています。

48_追っかけエイズ_CHARM

NPO法人CHARM(Center for Health and Rights of Migrants)