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News Paper

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南界堂通信 秋号|第49号

エイズ対策のキーパーソンたち

渡邉安奈さん
ドヤ街での訪問看護で学んだこと「フツーの街だと物足りないなって」

訪問看護師
渡邉安奈さん

西成のあいりん地区で訪問看護やコミュニティ活動に携わる渡邉安奈さんに突撃インタビュー!

MASH大阪(以下M):看護職を目指したきっかけは?

渡邉(以下、W):祖母が看護師で、経済的・社会的に自立しやすい仕事なんだ、っていうイメージがありました。母は栄養士だったのですが、「アンタは看護師になりや」。結局、すんなり看護学校に進学しました(笑)。

M:学校を出てからあいりん地区にたどり着くまでの道筋は?

W:京都と大阪の病院でしばらく働いたあと、看護学校で教鞭を取り、五年間働きました。修士号があれば将来看護大学で働く道が開けると考え、大学院に進学、医療安全管理学を専攻。勉強を続けながら、派遣会社の斡旋で療養型病院で働いたのですが、勤務時間の関係で勉強との両立が難しい。そこで派遣会社に相談したところ、訪問看護を勧められ、紹介されたのがあいりん地区の訪問看護ステーションだったのです。

M:戸惑ったことは?

W:すぐ慣れました(笑)。まず、あいりん地区の患者さんはドヤ住まいの方が多いので、ドヤ一軒に行けば複数の患者さんを回れて、とても効率がいい!(笑)。それから、変わった方、おもしろい方が多い。部屋がゴミ屋敷になってる方とか、全身入れ墨で小指のない方とか、犯罪歴を自分から話してくれる方だとか。訪問すると同性のパートナーさんがいて、狭いベッドで一緒に寝ていたり、かいがいしく看病していたりするのを見て「仲いいなあ!」と思うこともありました。

M:ドヤ街を訪問看護するのは効率がいい! 考えてみればそうですね。その後は?

W:修士号を取得して看護大学で働く道が開けたので、いったんあいりん地区を離れましたが、元同僚にHIVカフェ(ロカボ食べながらHIVを知る会=毎月一回、ロカボ、HIV、LGBTをキーワードにゆる~く雑談する寄り合い。誰でも参加できる)に誘われたのをきっかけに再びあいりん地区に戻り、HIVカフェに参加しつつ、写真に写っている訪問看護ステーションで働いています。私が初めてHIVと関わったのは、HIV陽性者の治療をしている病院の外来でした。消化器外科の外来にいたのですが、肛門裂傷の男性が治療に来ました。その際、HIV陽性であること、ゲイであることを父親に言えない、ということを聞きました。医師は「気持ちはわかるが、まだ未成年なので治療を続ける上で家族の協力が必要になる。それと、無茶な性交渉はしないように」と指導していました。その時の私は、知識も中途半端であり、彼に何も声をかけることができませんでした。そういった思いもあって、元同僚からHIVカフェの話を聞いた時、参加してみたいと思ったのです。あいりん地区以外の訪問看護に物足りなさを感じていたのも事実です。

M:物足りないと感じる背景は?

W:そうですね、まず、病院で働いていると、患者さんが向こうからやってくる。訪問看護では、こちらが患者さんの生活の場に足を踏み入れる。その生活の場は、あいりん地区以外だと、自分たちの生活の場と変わらないのだけれど、あいりん地区だと、それがまずドヤであることが多いし、そこで出会う患者さんは、ゴミ屋敷の住人だったり、全身入れ墨の人だったり、ゲイカップルの片割れだったりする。それと、患者さんの周りにいる人たちがとても温かい。こちらのことを訪問看護の人だと理解されているからか、「帰り道、気いつけや」とか「雨降ってるけど、傘あるか?」とか、他では聞けない言葉をかけてくれる。そんなとき、「社会的貧困と精神的貧困は別物なんだ!」と感じるようになったし、自分の看護観も変わってきたと思います。一例をあげると、ゴミ屋敷に住んでる患者さんに対して、以前の私であればすぐさまゴミを片づけ始めたと思うんですが、今なら患者さんと対話を繰り返して、本人が片づけるまで待つだろうと。つまり「看護の答えは患者さんの中にある」

M:看護の哲学?

W:実は今、大阪大学人間科学研究科の博士課程で、現象学という哲学を通して看護の本質を探究しています。

M:最後に、HIVカフェでは、ゲイを公言しつつ西成でケアマネとして活躍され、二年前に急死された梅田政宏さんと交流があったと思いますが、彼が遺したものは何だったと思われますか?

W:短いおつきあいでしたが、梅田さんが残したものは「影と光」でしょうか。梅田さんが亡くなったことでたくさんの人に悲しみや寂しさという影を落としたとは思いますが、そのことでつながった縁や、今まで座っていた人が立ち上がったりと、新たな光も生まれているように思います。

M:興味深いお話、どうもありがとうございました。