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南界堂通信〈春号|第26号〉

海外男街通信

Philippine
フィリピンのエイズ事情〈闘う相手は社会の側に〉

distaにたまたま立ち寄ったアレックスさん。
スタッフの求めに応じて、フィリピンのエイズ事情を語ってくれました。

フィリピンのアレックスと申します。はじめにフィリピン共和国の輪郭を述べることにします。インドシナ半島の東、ボルネオ島の北に位置する島嶼国家で、7千を超える島々から成ります。総面積は30万平方キロメートル(日本は37万)、人口は1億600万人、宗教は、カトリックが国民の81%、プロテスタント8%、イスラム6%、その他5%。言語は、タガログ語を基にしたフィリピノ語と英語が公用語、その他タガログ語を含めた8つの言語が有力な方言として認められています。

歴史的にフィリピンには極めて多様な文化がありますが、16世紀から19世紀にかけてはスペイン帝国の植民地となりスペイン文化の影響を強く受けました。1898年の米西戦争以降、米国の支配下に置かれました。太平洋戦争中、一時日本の統治下に置かれますが、1946年に独立を果たします。スペインの植民地となる前はイスラム教が優勢でしたが、スペインの統治下でイスラム勢力は南部のミンダナオ島に追いやられ、そのため現在でも同島ではイスラム勢力と中央政府のあいだに政治的な緊張が続いています。

フィリピン共和国の輪郭

さて、現代フィリピンの抱える問題の一つにエイズの蔓延があげられます。2010年くらいまで、フィリピンはHIV感染の非常に少ない国と言われていましたが、ここ数年、恐ろしい勢いで増加しています。2015年以来、WHO(世界保健機構)はフィリピンが世界で最も急激にHIV感染が増加している地域であるとして警告を発しているほどです。2017年の最初の8カ月における新規HIV感染は7,363件(日本は同年全体で1,389件)と報告されています。医療が普及していない地域も多くあることから、こうした数字は氷山の一角にすぎないとする見方もあります。このような状況をふまえ、フィリピン下院は1998年に施行されたエイズ予防法を改正し、国、当事者、市民社会が協働して対策を進めること、エイズへの偏見や差別をなくし、医療や福祉にアクセスしやすい環境をつくること、などを政策として推進することを決定しました。

アイザ・セゲーラ(左)とヴィセンテ・ソット(右)
アイザ・セゲーラ(左)とヴィセンテ・ソット(右)表情からしても二人の人間性がうかがえる?!

法律の改正をふまえ、ポーリン・ウビアル健康相(日本の厚生労働大臣にあたる)はコンドームの普及を国民に呼びかけ、エイズ予防のみならず望まない妊娠を減らすための施策としてハイリスクな状態にある高校の生徒たちにコンドームを配布することを提案しました。ところがこれに対して保守派の上院議員ヴィセンテ・ソットが噛みつき、「カトリック教会はコンドーム使用を聖書の教えに反する行為とみなしている。今回の健康相の提案はカトリック的伝統文化を破壊するものだ」と発言。これに対し健康相は「ソットらは自分たちの信条を他の人々に押し付けようとしている」と批判し「安全なセックスを実行しようとする人々は自分たちの信条と両親に従って実行すればよい」と述べました。この健康相の発言に援護射撃を行ったのがフィリピン青少年局の議長であり、LGBTであることを公言しているアイザ・セゲーラ。彼女は「ソット議員は問題の深刻さを理解していない。フィリピンの若者がHIV感染においても望まない妊娠においても危機的な状況にあることは種々の調査によって明らかだ」と発言。実はアイザとソット議員は以前テレビ番組で同僚として働いたことがあり、国民によく知られた有名人。二人の論争が今後どう展開していくのか、目が離せない!もちろん、私はアイザとポーリンを支持しています。HIVに感染している人々が闘っているのは、ウイルスではなく、社会に残る偽善、偏見、差別なのです。

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