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南界堂通信〈春号|第30号〉

知られざる偉人伝

「同期の桜」のオリジナルは
元祖腐女子に向けた元祖BLソングだった?!

西條 八十
(詩人/1892-1970)

西條 八十(詩人/1892-1970)

「貴様と俺とは同期の桜...」ではじまる軍歌、南界堂通信の読者ならきっとご存じですよね。この歌、たいてい西條八十(さいじょう・やそ)作詞、大村能章(おおむら・のうしょう)作曲というかたちで知られていますが、歌詞はこうです...

  1. 貴様と俺とは同期の桜 
    同じ兵学校の庭に咲く
    咲いた花なら散るのは覚悟 
    見事散りましょ国の為
  2. 貴様と俺とは同期の桜 
    同じ兵学校の庭に咲く
    血肉分けたる仲ではないが 
    何故か気が合うて別れられぬ
  3. 貴様と俺とは同期の桜 
    同じ航空隊の庭に咲く
    仰いだ夕焼け南の空に 
    今だ還らぬ一番機
  4. 貴様と俺とは同期の桜 
    同じ航空隊の庭に咲く
    あれほど誓ったその日も待たず 
    何故に散ったか死んだのか
  5. 貴様と俺とは同期の桜 
    離れ離れに散ろうとも
    花の都の靖国神社 
    春の梢に咲いて会おう

ユーチューブで聞くと勇壮な軍歌調で歌われるザ・軍歌ってカンジなんですけど、歌詞に注目するとアヤシイのですね、これが。「別れられぬ」とか「春の梢に咲いて会おう」とか、ロマンチックな、言ってみれば特攻隊員の二人が自分たちを散る桜になぞらえ、靖國の桜に生まれ変わろうと誓いを立てているともとれる。不思議に思って調べてみると、この『同期の桜』、実は替え歌で、帖佐裕(じょうさ・ひろし)さんという名の海軍大尉が人間魚雷「回天」の出撃式に向けて、オリジナルの歌を改作したものらしい。この替え歌がよほど魅力的だったのか、海軍の特攻隊出撃式などでさかんに歌われ、陸軍にも飛び火、陸軍で歌われる際は「航空隊」が「兵学校」に変えられたりしたわけです。替え歌だからレコードにも吹き込まれていないけれど、戦後もさかんに歌われ、替え歌のままレコードで発売されたりした。

じゃあ、オリジナルの歌詞はどうだったのか、これもユーチューブで見れるのですが、はじめて聞いたときは思わずのけぞりました...

  1. 君と僕とは二輪のさくら 
    積んだ土嚢の陰に咲く
    どうせ花なら散らなきゃならぬ 
    見事散りましょ皇國くにの為
  2. 君と僕とは二輪のさくら 
    おなじ部隊の枝に咲く
    もとは兄でもおととでもないが 
    なぜか氣が合うて忘られぬ
  3. 君と僕とは二輪のさくら 
    共に皇國みくにのために咲く
    昼は並んで夜は抱き合うて 
    弾丸たまふすまで結ぶ夢
  4. 君と僕とは二輪のさくら 
    別れ別れに散らうとも
    花の都の靖國神社 
    春の梢で咲いて会ふ

「昼は並んで夜は抱き合うて、弾丸たまふすまで結ぶ夢」なんて、まあ、臆面もなく...これが「少女フレンド」の前身「少女倶楽部」に掲載されたのが昭和13年。西條八十はどうやら、「少女倶楽部」の読者層には今でいう「腐女子」がたくさんいるとにらんでいたに違いないですね。翌14年には大村能章が曲を付け、『戦友の歌』というタイトルでレコード化されたのだけれど、三番の歌詞は割愛されました。戦時中、腐女子もちゃんといたけれどホモフォビアもちゃんとあった?!

それから5年、太平洋戦争の戦局がいよいよ厳しさを増すなか、政府は国家総動員法に基づき大学生を無理やり卒業させて徴兵し、特攻隊を組織、多くの若者を死地に送り込んだわけだけれど、その出撃式に臨んだ帖佐大尉がロマンの色彩濃い『二輪の桜』の歌詞を改作してより軍歌らしい『同期の桜』に仕立て上げた。しかしロマンの色彩が完全に払拭されたわけではなく、むしろそれゆえに戦後も生き残ったとみるべきなのでしょう。

ノンフィクション作家半藤一利(はんどう・かずとし)によれば回天出撃式の際には、まず全員が『海ゆかば』を歌い、次に出撃する側が『轟沈』(戦意発揚のマーチ)を、最後に基地に残る側がこの『同期の桜』を歌ったらしい。その際、四番の歌詞はきっと歌われなかったのでしょうね。『同期の桜』にしても、万葉の歌人大伴家持の歌の一部にワーグナー風の重厚な音楽を付けた『海ゆかば』にしても、戦地で死ぬことを美化するためにつくられたもの。当時西條八十は早稲田大学文学部仏文科の教授であり、自身の教え子たちが戦地に赴くのを涙ながらに送り出したと伝えられていますが、戦後になって自作の替え歌バージョンを聞くたびに、どのような想いが彼の胸をよぎったのでしょうか。

少女倶楽部
鬼塚哲郎

あと数年で定年を迎える大学教員。『同期の桜』はいろんなバージョンがユーチューブにあがっていますが、ワタクシのオススメはやはり美空ひばり。歌詞の世界に真正面から向き合っています。五番の歌詞を歌っていないのも見識でしょうか。靖國神社、戦前は国立の神社だけど、戦後は一宗教法人なわけですからね。

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