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南界堂通信〈秋号|第40号〉

エイズ対策のキーパーソンたち

臨床から
感染症対策への転身

大阪市健康局首席医務監 吉田英樹先生

文字通り、大阪市感染症対策のキーパーソンである
吉田英樹先生にお話を伺いました!

大阪市健康局首席医務監 吉田英樹 先生 大阪市健康局首席医務監 吉田英樹 先生

MASH大阪(以下M):長年、大阪市保健所でエイズ対策に関わられ、南界堂通信の創刊号制作にもご協力いただいた吉田先生ですが、この4月の人事異動で保健所長から健康局の首席医務監になられたということで、大阪市役所でお話をうかがうことになりました。早速ですが、これまでの仕事とどう違うのでしょう?

吉田:これまでは、保健所長でしたので、市民の健康を守る保健所業務の責任者でしたが、現在は、保健所業務に加え、さらに広い領域を統括する部署である健康局で、医療専門職の立場から局長を補佐するのが私の仕事です。

M:専門職としては大阪市の公衆衛生のトップにいらっしゃるわけですが、初めから公衆衛生の道を歩もうと?

吉田:いえ、紆余曲折を経てここに居ります(笑)。確かに、父方の祖父も母方の祖父も医者でしたし、伯父や伯母にも医者がいましたので、医者というものに自然と尊敬の念を抱くような環境で育ちました。自然な流れで医学部に入り、内科の臨床医をめざすようになります。

M:医学部で公衆衛生に目覚めたわけではない?

吉田:そうですね。「公衆衛生って、どこがおもしろいんだろう?」なんて思ってました(笑)。大学院に入って、基礎研究で学位を取得したことで、臨床以外のことに目が向くようになっていきます。最初の就職先は天王寺区にあった大阪市立桃山病院でした。感染症専門の病院で、ここで感染症の臨床医として働くことになります。その後、市立病院の統廃合があり、都島区に大阪市立総合医療センターが設立され、そこでもやはり感染症内科医として働きました。

M:そこでエイズと出会う?

吉田:そうです。90年代の前半、エイズ患者が増加し始めた時期でした。カウンセラーと協働するなど、チーム医療が始まり、いろんな研修も受けました。MASH大阪さんなど、NGOとの協働もやりましたね。

M:でも、この時もまだ臨床医ですよね?

吉田:そうです。まさにこの時期に臨床医の仕事に物足りなさを感じ始めるんです。街では様々な感染症が発生しており、中には麻疹、風疹やO157などのアウトブレイクをおこしている。でも臨床医としては病院で患者さんが来るのを待つしかない。「病院にいるだけでは根本的なアウトブレイク対策はできない!」という焦燥感がつのってきた。そこで思い切ってCDC(米国連邦政府の疾病対策センター)の実地疫学専門家の助言を得るために、ジョージア州のアトランタに飛びました。 CDCには、世界各地で起きている感染症のアウトブレイクに対し、疫学・微生物学・感染症学・薬学・ワクチンなどの専門家が、アウトブレイクの収束や再発予防策のためにどのような対策を構築すべきかを実地で学ぶプログラムがあるのですが、そのCDCにたまたま東京の国立感染症研究所のスタッフの方々が来ておられて、「今年(1999年)日本でも養成コースを立ち上げようと思っています。ぜひ参加しませんか」と言うではありませんか!

M:なんという展開!

吉田:ところが大阪に戻って病院に参加希望を出しても、代わりの感染症内科医がすぐには見つからないので待ってくれ、という回答。3年待って、2002年にいったん退職し、養成コースに参加しました。2年間の研修中、致命率の極めて高いSARSの流行の折にはWHOの西太平洋事務局(マニラ)に出張に行ったり、北九州の病院でVRE(バンコマイシン耐性腸球菌感染症)がアウトブレイクした際は現地に入って保健所の人たちと協働したり。この時は感染症内科医の経験が活きましたが、同時に臨床医では決してできない、感染症対策にかかわる多くの学びを得ることができました。そして2年後の2004年、今度は迷わず大阪市保健所に就職したというわけです。

M:臨床から感染症対策への鮮やかな転身ですね。では最後に、首席医務監の仕事に対する抱負を聴かせてください。

吉田大阪市は元々人口が多く人口密度が高い上に、近畿圏から人が流入する大都市で、大規模な港湾都市でもあり、関西国際空港も近いので、世界から人が集まってくる街です。感染症が入ってきたりアウトブレイクが発生したりするリスクがどうしても高くなります。大阪市では専門的な知識やこれまで培ったノウハウをもとに感染症対策を進めてきましたが、前例踏襲だけでは課題解決できないという危機感を持ち、新たな対策事業を立ち上げるために、行政機関のチームや外部関係者と検討を重ね、実現に向けて調整していく必要があります。大阪では民間団体などのネットワークが豊富ですので、その利点も生かして今後も連携していきたいと考えています。大阪市の昼間人口は数十万人増加します。近畿圏を中心に市外から流入する人たちの分もやったるでという気概で、感染症を含む健康危機管理体制の構築に貢献していきたいと思っています。

M:貴重なお話、どうもありがとうございました。

長年、大阪市のエイズ対策のど真ん中にいらした吉田さん。PLuS+(2004~2010年)の開催の時もご協力頂いていました。誠実で物静かな方だという印象がありましたが、インタビュー中、身振り手振りで情熱的にお話しされてましたので、シャッターを何度も切りましたがブレ写真が多かったです(笑)これからも協働していけたらと思います。(編集部)

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