追っかけエイズ
大阪市のエイズ対策基本指針とは?
第3次エイズ対策基本指針の実績報告とその評価が行われました。
あわせて第4次基本指針(案)の内容が提示されましたので、少し詳しめに報告します!
大阪市は2007年にエイズ対策基本指針を策定し、「検査・相談体制の拡充」「正しい知識の普及・啓発」「学校教育における予防教育」「MSM(ゲイ・バイ男性)向けプログラム」「医療体制の整備」を5つの柱とする事業を展開してきています。同様の「基本方針」は多くの自治体で策定されていますが、大阪市の特徴は、年度ごとに数値目標を定め、有識者による対策評価委員会を設置してこれを評価・検討し、さらに5年ごとに基本指針そのものを改定していく、という点にあります。今年は第3次基本指針を総括し、第4次基本指針を策定する節目の年にあたります。まずは、表1、図1、図2で大阪市の発生動向をご覧ください。
区 分 | HIV感染者報告数 | エイズ患者報告数 | 合 計 |
---|---|---|---|
2017年 | 100 | 33 | 133 |
2018年 | 95 | 28 | 123 |
2019年 | 87 | 20 | 107 |
2020年 | 75 | 19 | 94 |
2021年 | 64 | 13 | 77 |
次に、この5年間で数値目標がどの程度達成されたのかを見ていきましょう。数値目標は大目標、副次目標、具体的な取り組みの目標、の3種類に分かれています。このうち大目標はとてもシンプル、「新規エイズ患者報告数」これだけです。2021年の目標値は「30人以下」でしたが、実績値は13人。しかも2017年からずっと減少傾向にあり、「予防対策の成果が感じられますねぇ」と言いたいところですが、コロナ禍の20~21年には検査件数が大幅に落ち込んでいることを考え合わせると、もう少し待つ必要がありそうです。事実、MSMのHIV検査受検者数は19年度が3258人だったのに対し、21年度は2616人。この数字が、副次目標の「3600人以上」を大幅に下回っているのです。
副次目標でもうひとつ重要なのは、感染者と患者を合わせた新規報告数に占めるエイズ患者の割合です。この値が少ないほど早い段階で見つかっている、つまりコミュニティに予防啓発が浸透している、と考えられるわけですが、この値は5年間で24・8%から16・9%へと減少傾向にあるものの、数値目標である「15%以下」には届きませんでした。ただしこの数字は全国主要都市では最も低い水準となっています。
ターゲット層向けの具体的な取り組みとして、報告書は①青少年向け健康教育、②MASH大阪と協働したMSM向けプログラム、③性風俗産業従事者向けのプログラム、④外国人向けプログラム、の4つをあげています。このうち、②のプログラムとしては、南界堂通信の発行(年2回、大阪市の予算で発行)、検査プログラム「distaでピタッとちぇっくん」(相談を含む)、夜間検査の広報などが協働事業として報告されています。そして、これらのプログラムの成果を測る数値目標としてコンドーム所持率が設定されています。アンケート調査の結果、過去6ヶ月間コンドームを「いつも持っていた」と答えたMSMの割合は2017年度の40・7%から増加傾向にあり、21年度は48・2%となりましたが、目標の50%にはわずかに届きませんでした。
以上まとめると、MSM関連の数値目標はおおむね達成されたか、それに近い実績を示しているものの、コロナ禍のもとで検査受検者数が大きく減っており、油断は禁物です。また、対策評価委員会の席上で、コロナ禍のもと保健所におけるエイズ対策の取り組みは継続して行われていましたが、社会的に検査や相談、健康教育の実施を控える傾向にあり、医療・福祉関係者への意識啓発の機会が減少したことが課題としてあがっていました。高齢化するHIV感染者・エイズ患者の受け入れ先となる福祉施設の職員さんたちの多くが、「エイズ=死に至る病」というイメージを払拭できていない現状を考えると、課題解決への策を講じることが急務と考えられます。
さて、今回提示された第4次エイズ対策基本指針(案)は、概ね第3次基本指針の延長上にあるといえるものの、2つの新しい点を含んでいます。その1つ目は、まさに今述べた「エイズ=死に至る病」イメージを払拭するため、「U=U(検出限界以下ならば感染せず)」という私たちにとってはおなじみのメッセージを「あらゆる機会において周知するとともに、その認知状況の把握に努める」と述べている点です。2つ目の点は、MSM向けプログラムにおいてPrEP(曝露前予防投薬)の情報を「正しい知識」に含めること、です。
この2点が第4次基本指針に含まれるということは、大阪市のエイズ対策がUNAIDS(国連合同エイズ計画)や米国CDCの打ち出す方針に敏感に反応していることをあらわしていると思われます。
過去の南界堂通信
- 2023年度
- 2022年度
- 2021年度
- 2020年度
- 2019年度
- 2018年度
- 2017年度
- 2016年度
- 2015年度
- 2014年度
- 2013年度
- 2012年度