エイズ対策のキーパーソンたち
京都の御所にほど近い閑静な一角にあるバザールカフェ。
エイズ業界関係者にはよく知られたこのカフェに関わる松浦千恵さんにお話をうかがいました。
MASH大阪(以下M)そもそもバザールカフェとは?
松浦:20年前、HIV陽性の人たちが安心して過ごせる場としてスタートし、次に仕事がないことが課題となり雇用の提供をする場としてつくられたカフェです。キリスト教会(日本基督教団)の関係者、大学関係者、HIV陽性者や外国人支援を提供していた人たち、アーティストなどが集まり、知恵とおカネと労働力を出し合って開かれたと聞いています。
M:当時の使命は今も変わっていないのでしょうか?
松浦:生きづらさを抱えた方が安心して過ごせる場という意味では基本的には変わっていません。ただ、今ではHIV陽性の人やその支援者だけでなく、アルコール依存、薬物依存、その他の精神疾患やひきこもりなどの困難を抱えている方の利用も増えています。ここ20年でHIV陽性者の治療と福祉は少なくとも日本国籍を持つ人にとっては大幅に改善されましたが、生きづらさやその他の課題がなくなるわけではないですし、その他の生きづらさや社会的課題もたくさんあると思います。
M:依存を抱えた人たちにとってバザールカフェはどんな役割を果たしているのでしょうか?
松浦:支援者団体と連携して、社会復帰するためのスモールステップの場所として機能していると思います。カフェで働く中で、人と出会いコミュニケーションをとったり、休むことを頑張ってみたり。ひきこもりの場合、京都府の青少年の社会的ひきこもり支援事業の受け皿になっています。10年、20年ひきこもっていた人は社会に出ていくのがコワイ。ここでボランティアの仕事をしてもらって、社会に踏み出す第一歩の場を提供していることになります。
M:なるほど。松浦さんがバザールカフェにかかわるようになったきっかけは?
松浦:もともと父親が医者でエイズ関連のボランティアをやっていたこともあって、自分も何かしたいと思ってHIVに関わることを少ししていたけれど、モラトリアムの時期が長く、高校を出ても進学せずにネパールに逃亡したり(笑)。帰国してブラブラしてるときにバザールを起ち上げた人と出会い、気がついたらここにいました(笑)。そこから大学に行って社会福祉を学び、精神科のクリニックに就職して食い扶持をかせぎ、残りの時間はここで活動しています。クリニックでは主に依存症の方々に関わっていますが、家とデイケアの往復みたいな人もいます。いつも枠にはめられていて面白くなさそう。彼らに居場所と活躍できる場を提供すると、イキイキとされていきます。最近サードプレイスという言葉を聞いたのですが、これは家、職場の次にある第三の安心できる場みたいなものらしいです。しかし、バザールカフェに来られる方は、家にもどこにも居場所がないというような方が多くて、そのような方の居られる場所になればいいなと思っています。
M:バザールカフェの営業についてお聞かせください。
松浦:水曜から土曜までの11時半から5時半までの営業です。水曜は韓国、木曜と土曜はタイ、金曜はフィリピンの方がそれぞれ料理を作って出します。夜間は通常営業はありませんが、勉強会やパーティーの予約が入れば開けます。そのほか、アルコールや薬物依存症の支援プログラムとか、“しゃばカフェ”と呼んでいる、出所者を支援している支援者のネットワーク作りのプログラムなどもやっています。生きづらさとは、そんなに簡単に解決出来るものではなく、しかもその人個人の問題ではなく社会の側の問題であることも多分にある。生きづらさを解決してあげることはできないけれど、その生きづらさに付き合うことならできるかもしれないと思い、伴走を目的とする伴走型支援という言葉を今気に入ってます。その方の人生に付き合うということだと思います。
M:興味深いお話、どうもありがとうございました。
◉SALON DE BAZAAR
「HIV陽性」「ゲイ男性」「薬物依存」という、すべての属性にあてはまる人だけが集まり、仲間や自分の話を共有する事で少しでもラクな生き方を見つけ出せればと言う願いを込め、2015年より「SALON DE BAZAAR」という場所を提供しています。(開催日時に関してはお問い合わせ下さい。)
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