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南界堂通信〈春号|第42号〉

海外男街通信

New York 後 編

古橋悌二の
足跡をたどって

AIDSアクティヴィストやアーティストが野外で行った上映とトークのイベント
AIDSアクティヴィストやアーティストが野外で行った
上映とトークのイベントを訪問。

皆さん、こんにちは、前回に引き続いてのアキタ・ショウです。前回は主にニューヨークのゲイタウン事情をレポートしました。私は昨年の秋、久しぶりにニューヨークを再訪したのですが、今回はそのお話しをしたいと思います。

ニューヨークはとても多様な文化や生活が溢れた場所なので、一言で表すのは難しいですが、相変わらず元気で刺激的な街でした。でも以前から続いていた高級志向の再開発は一目瞭然なレベルで、雑多な雰囲気が薄まったり、場所によっては以前よりも汚くなっていたりしました。それと、コロナ禍や地価高騰の影響でニューヨークを離れた人も多いようです。また、アート界では、以前よりも人種やジェンダーが多様になったように感じました。

さて、皆さんは古橋悌二というアーティストをご存じでしょうか?
悌二さんは京都の アーティスト集団〈ダムタイプ〉のメンバーで、〈ダムタイプ〉が1994年に発表した〈S/N〉、個人名義で発表したインスタレーション作品〈LOVERS〉などで知られ、1995年にエイズで亡くなっています。今回ニューヨークを再訪したのは、実は悌二さんの当地での活動を調査するためでした。

AIDSアクティヴィストやアーティストが野外で行った上映とトークのイベント
AIDSアクティヴィストやアーティストが野外で行った上映とトークのイベントを訪問。
ACT UPの運動をビデオで記録したことで有名なジェームズ・ウェンズィさん
ACT UPの運動をビデオで記録したことで有名なジェームズ・ウェンズィさん。
彼が住むハドソン川沿いのビルの屋上にて。

今の私にとって悌二さんは、ゲイやアートのあらゆる世界に深く導いてくれる特別な存在です。彼の姿を映像で初めて見たとき、彼はすでに故人ではあったけれどよく知られたアーティストであり、謎多き、遠い存在でした。でもこの調査を通して、悌二さんの友人たちによくしてもらっているせいか、私の身近な人たちの友人、という風に感じることもあります。彼は周りの人々との関係性やその可能性について深く考えていた人だと思うので、彼の存在を彼ひとりを通して語ることは難しいのです。

また、悌二さんは80年代後半以降の日本のゲイカルチャーに大きな影響を及ぼした人物だと思います。アーティストとしての彼は作品から知ることができますが、個人としての悌二さんのことをもっと知りたいし、ひろく知られてほしいと思っています。そんな思いを胸にニューヨークを再訪したというわけなのです。

Visual AIDSが13丁目にあるLGBTQセンターで行った上映イベント
Visual AIDSが13丁目にあるLGBTQセンターで行った上映イベント。
コロナ禍で登場したお直し屋さん
MoMAのアーカイヴには悌二さんの
インタビュー音声も保存されている。
アーカイヴに到着したらこのようにきれいに準備されていた。

悌二さんにとってニューヨークは、作品を発表しダイレクトに反応を知れる場所、そして他のアーティストと交流したりナイトライフを楽しんだりした、京都とは違う生活を体験できる街だったと思います。また、80年代後半のニューヨークにはすでにHIVやエイズとともに生きる人たちがたくさんいて、そのことに関するアートや運動も活発でしたから、悌二さんは大きな刺激を受けていたと思います。展示や公演も行っていますが、アート関係者に会ってネットワークを構築した時期もありました。そうした日々は京都での活動や自分を俯瞰し見つめる時間でもあったはずです。

悌二さんがニューヨークに残した足跡のひとつ、先に述べた〈LOVERS〉がニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されています。私は今回、同美術館を訪れ、同作品が2016年に修復された際、その作業に参加した同美術館のチーフ・コンサバター(保存修復士)ケイト・ルイスさんにお話をうかがうことができました。こんな具合にニューヨークでの悌二さんの足跡をたどることで、「神格化」され「謎多き」アーティストではなく、友人たちの友人であり、私や多くの人をクイアカルチャーと運動の世界に導いてくれた悌二さんの実像に迫ってみたい、そしてそれを1冊の本にまとめて共有したい、というのが私の夢です。

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